た。安もそれには駭いたが、心ではひどく二成を憐《あわれ》に思って、その金をすっかりくれてやった。二成は喜んで、任の家へいって金を返してしまった。二成はひどく兄を徳とした。臧はいった。
「これで、ますます兄さんの詐《うそ》が知れるのですよ。もし、自分で心に愧《は》じることがなくて、だれが二つに分けたものをまた人にやるものですか。」
二成はそれを聞かされると半信半疑になった。翌日になって任の家から下男をよこして、払った金はすっかり偽金《にせがね》であるから、つかまえて官にわたすといって来た。二成と臧は顔色を変えて驚いた。臧がいった。
「どうです。私ははじめから兄さんは利巧《りこう》で、ほんとに金なんかくれることはないといったじゃありませんか。どうです。これは兄さんがお前さんを殺そうとしていることじゃないの。」
二成は懼れて任の家へいって哀みを乞うた。任は怒って釈《ゆる》さなかった。二成はそこでまた地券を任にやって、かってに售《う》ってもかまわないということにして、やっともとの金をもらって帰って来た。そして断ってある二つの錠《いたがね》をよく見ると、真物の金は僅かに菲《にら》の葉ぐらいか
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