きないので、両方の目が真赤に充血してしまった。そこで弟の二成を呼んで代りにやらせようとしたが、二成が門を入って来ると臧がすぐ喚びに来て伴れていった。
 大成はそこで姨の家へかけつけて、
「見舞ってやってください。」
 といって涙を流しながら頼んだ。その頼みの言葉の畢《おわ》らないうちに、珊瑚が幃《とばり》の中から出て来た。大成はひどく慚《は》じて、黙って出て帰ろうとした。珊瑚は両手をひろげて出口にたちふさがった。大成は困ってその肘の下を潜《くぐ》りぬけて帰って来たが、そのことは母には知らさなかった。
 間もなく姨が来た。大成の母は喜んでいてもらうことにした。それから姨の家から日として人の来ないことはなかった。そして来れば旨《うま》い物を送ってよこさないことはなかった。姨は家にいる寡婦《やもめ》の嫁にことづけをした。
「ここではひもじいめに逢うようなこともないから、もう何も送って来ないようにってね。」
 しかし姨の家からは欠かさずに物を送って来た。姨はそれをすこしも食わずに、のこしておいて病人にやった。
 大成の母の病気はだんだんよくなった。姨の孫がその母親にいいつけられて、おいしい食物
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