を持って病人の見舞に来た。大成の母は歎息していった。
「賢いのね、嫁は。姉さんは、前世でどんな善いことをしたのでしょう。」
 姨はいった。
「お前さんが出してしまった嫁はどうだった。」
 大成の母はいった。
「あァ、あァ、それはね、夫己氏《だれか》のようにひどくはないが、でも、どうしてお宅の嫁にかないましょう。」
 姨はいった。
「嫁がいた時には、お前は苦労を知らないでいられたし、お前が怒っても、嫁は怨まなかったし、嫁があるにこしたことはないじゃないか。」
 大成の母はそこで泣いて、そして珊瑚を出したことを後悔しているといって、
「珊瑚はもう他へかたづいたでしょうか。」
 と訊いた。姨はいった。
「知らないが、ね。詮議をしてみよう。待っておいで。」
 二、三日して大成の母の病気は一層良くなった。姨は家へ帰ろうとした。大成の母は泣いていった。
「姉さんがいなくなったら、私は死ぬるのですよ。」
 姨はそこで大成と相談して、二成を分家さすことにした。二成はそれを臧に知らした。臧は気を悪くして大成と姨に悪口をついた。大成は良い田地をすっかり二成にやりたいといった。臧はそこで機嫌がよくなったので
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