ようとした。それには大屋さんの力も借りなければならないので、彼はしかたなく大屋さんに事情を話した。
甚九郎と打ち合せをしている源吉は、すました顔をして甚九郎の家へ来た。
「大屋さんが話したいことがあるから、来いと云うぜ」
甚九郎は源吉に跟《つ》いて出て往ったが、やがて帰って来て女房に向って、
「大屋の親爺め、煩《うるさ》いことを云ったよ」
「どんなことを云ったの」
と、女房が聞くと、
「いや、べつにたいしたことでもないが……」と、詞《ことば》を濁す。
翌日になるとまた源吉が来て大屋さんからだと云った。甚九郎はまた源吉といっしょに出て往ったが、今度はよっぽど遅くなって帰って来た。
「大屋さんは、なんだね」
と、女房が聞く。甚九郎は顔に苦しそうな表情を見せた。
「困ったことになったよ、先月、奥州棚倉の桜町に、みさかや助四郎と云う者の女房が、所天《ていしゅ》はじめ、舅姑を刺殺し、金銀を奪い取って、家へ火をかけたうえで、浄土宗の坊主と逐電して、坊主はすぐ捕まったが、女房が今もって行方が知れないために、江戸までその詮議があって素性の知れない怪しい女は、搦め執って突きだせと云うお触れがあ
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