山姑の怪
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)独身《ひとり》者
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)店|頭《さき》に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》な
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甚九郎は店に坐っていた。この麹町の裏店に住む独身《ひとり》者は、近郷近在へ出て小間物の行商をやるのが本職で、疲労《くたび》れた時とか天気の悪い日とかでないと店の戸は開けなかった。
それは春の夕方であった。別に客もないので甚九郎は煙管《きせる》をくわえたなりで、うとうととしていると何か重くるしい物音がした。店の上框《あがりかまち》へ腰をかけた壮《わか》い女の黒い髪と背が見えた。甚九郎は何も云わずに店|頭《さき》に坐り込んだ女の横顔を眼を円くして見詰めた。女は前屈みになって隻手を額にやっていた。途を歩いているうちに急に気分でも悪くなったために、挨拶する間もなく入り込んだものであろうと思って、旅で苦しんだ経験のある彼
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