きらと映った。
「おや、おかしいぞ」と、源吉は不審したがその不審の下からぶきみになって来た。で、ちょっと足を止めて躊躇したが、どうも不思議でたまらない。思いきって寄って往って障子の穴から覗いてみた。行灯の横手に坐った恐ろしい獣のような顔をした女が、瓦盃《かわらけ》へ油壺の油を入れて飲んでいるところであった。源吉は怕《こわ》くて体がぶるぶると顫いだしたが、知られるとどんな目に逢うかも判らないと思ったのでやっと忍えて窓から離れようとすると、女は行灯の火を吹き消して横になった。その形は小牛のように見えた。
 甚九郎の女房は人間ではなかった。甚九郎はその五六日行商に出て留守であった。源吉は甚九郎が帰って来ると甚九郎を己《じぶん》の家へ呼んで、それとなく女房のことを話した。
 甚九郎も女房のすることに就いて不審の晴れないことがあった。それに壮《わか》い※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》な顔をしている時があったり、凄い狼のような顔をしている時があったり、また背の高い時があったり、背の低い時があったりして、そればかりでも疑うには充分であった。
 甚九郎は源吉の知恵を借りて女を離縁し
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