ものがあった。それは土色をした蛙であった。蛙はその眼をきろきろとさしながら這いだして係蹄の傍へ往き、ちょっと立ち停って何か考えるように首を傾げていたが、やがてぱくりと口を開けたかと思うと、彼は山蚯蚓をくわえて眼を白黒にさしながら呑んでしまった。蛙はやっと一仕事終ったと云うような態をして踞んだ。
何処にいたのか黒の地に赤い斑点のある小蛇が蛙の後の方へ這いだして来た。半兵衛は眼をひかずにそれを見ていた。蛇は蛙の傍へ往くと鎌首をあげて、赤い針のような舌をちらちらと一二度出した後に蛙の隻足《かたあし》をくわえた。蛙は驚いて逃げようとしたがどうしても逃げることができないで、その体は次第に蛇の口の中へ消えて往った。
(けたいなこともあるものじゃ)
半兵衛は鬼魅がわるかった。その半兵衛の眼の前を灰毛の大きな体のものが掠めた。谷の下の方の林の中から一疋の大きな野猪が不意に出て来て、半兵衛の鼻端《はなさき》に触るように係蹄の傍へ往った。半兵衛は鉄砲をかまえた。野猪は蛙を呑んでむこうのほうへ這うて往こうとしている蛇を一口にぺろりと呑んでしまった。同時に半兵衛は火縄をさした。彼は小牛のような野猪が、轟然
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