の胴乱から煙管を出して煙草を詰め、火縄の火を移して静に煙草を喫《の》みながら獣の来るのを待っていた。
冷たい風が頭の上を吹いて通って、霜になりかけた露が時どき頬に落ちてきた。半兵衛は煙草を喫みながら耳を澄まして、獣の跫音がしやしないかと注意していた。そのうちに夜が段だんと明けて来た。仰向いて空の方を透すと空は蒼白くなって、光のなくなった星が二つばかり栂《とが》の木の梢にかかっていた。
林の下も次第に明るくなって木の葉の色も形もやや識別することができるようになった。係蹄《けわさ》を掛けた処は其処から五六間しか離れていなかった。それは山裾の小溝のように窪んだ処であった。半兵衛は朝の餌を探しに来る獣がもう動きだす時刻だと思ったので、煙管を胴乱に収めてしっかりと腰に差し、立て掛けてあった鉄砲を隻手に持って何時でも撃てるように身がまえをした。
紫色に光る一つの山|蚯蚓《みみず》が、小蛇のように何処からか這いだして来て、それが係蹄の針金にかかった。半兵衛はそれを見つけた。
(大きな蚯蚓もあるもんだ)
蚯蚓はそれっきり動かなくなった。と、その傍の黄色になった草の中からにょこにょこと動きだした
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