を着た者が入ってきた。
「相公がいらっしゃる」
黄色な衣服を着た者もそう言って出て往った。元振は相公と言えば大臣宰相だ、俺が将来《さき》で宰相にでもなるのかと思って喜んだ。元振の気が引きたってきた。
扉がまた開いて十人ぐらいの者が入ってきた。冠を着けた逞しい者がその中に交っていた。元振はそれが邪神の烏将軍だろうと思った。邪神らしい者は元振を見た。
「相公は、何故、ここにいらっしゃいます」
「今晩は、目出度い婚礼の酒宴があるということを路で聞いたから来た」
邪神は喜んだ。
「これはありがたい、では、席に着いて貰おう」
邪神の一行が酒宴の席へ入ったので元振は後から随いて往った。邪神は自個《じぶん》の前へ元振を招《よ》んだ。元振は考えついたことがあった。元振は邪神に向って言った。
「貴郎は、鹿の脯《ほしにく》をおあがりになりますか」
「鹿の肉は好きだが、この辺は鹿があまりいないから、喫《た》べられない」
元振は腰に付けていた糧食《べんとう》の鹿の脯を出した。
「これは、鹿の脯でございます」
元振は剣を抜いてその脯を一きれ切って左の手でさしだした。邪神は喜んで片手を出した。脯を載せ
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