殺神記
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)郭元振《かくげんしん》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)一条|微赤《うすあか》い
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唐の開元年中、郭元振《かくげんしん》は晋《しん》の国を出て汾《ふん》の方へ往った。彼は書剣を負うて遊学する曠達《こうたつ》な少年であった。
某《ある》日《ひ》、宿を取り損ねて日が暮れてしまった。星が斑《まばら》に光っていた。路のむこうには真黒な峰が重なり重なりしていた。路は渓川《たにがわ》に沿うていた。遥か下の地の底のような処で水の音が聞えていた。鳥とも蝙蝠《こうもり》とも判らないようなものが、きい、きい、と鋭い鳴声をしながら、時おり鼻の前《さき》を掠《かす》めて通った。
夜霧がひきちぎって投げられたように、ほの白くそこここに流れていた。車の轍《わだち》に傷めつけられた路は一条|微赤《うすあか》い線をつけていた。その路は爪さきあがりになっていた。高い林の梢の上に微《かすか》な風の音がしていた。
路は小さな峰の上へ往った。路の上へ出ると元振はちょっと馬を控えた。黒い山の背がやはり
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