わ》などの彼《か》の盗まれた神宝があった。
そこで豊雄の大盗《だいとう》の疑いは晴れたが、神宝を持っていた罪は免がれることができないので、牢屋《ろうや》に入れられていたのを、豊雄の父親と兄の太郎が賄賂《わいろ》を用いたので百日ばかりで赦《ゆる》された。豊雄は知った人に顔を見られるのが恥かしいので、大和の姉の許へ往った。その姉の家は泊瀬寺《はつせでら》に近い石榴市《つばいち》と云う所にあって、御明灯心《みあかしとうしん》の類を売っていた。某日《あるひ》豊雄が店にいると、都の人の忍びの詣《もうで》と見えて、いとよろしき女が少女を伴れて薫物《たきもの》を買いに来た。少女は豊雄を見て、「吾君《わがきみ》のここにいますは」と云った。それは真女児の一行であった。豊雄は、「あな恐し」と云って内に隠れた。女は豊雄を追って往って、「君|公庁《おおやけ》に召され給うと聞きしより、かねて憐《あわれ》をかけつる隣の翁《おきな》をかたらい、頓《とみ》に野らなる宿《やど》のさまをこしらえ、我を捕《とら》んずときに鳴神《なるかみ》響かせしは、まろやが計較《たばか》りつるなり」と云い、神宝のことに関しては、「何とて
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