って気が注いた。李幕事が云った。
「先生、捉れたでしょうか」
 戴先生は呼吸《いき》をはずましていた。
「蛇なら捉れるが、あれは妖怪です、私はすんでのことに命を奪《と》られるところでした。あの銀はお返しします」
 こう云って戴先生は逃げるように出て往った。李幕事と許宣は顔を見合わして困っていた。
「あなた、ここへいらしてください」
 室の中から白娘子の声がした。許宣は体がぶるぶると顫えた。しかし、往かずにいてはどんなことをするかも判らないと思ったので、恐る恐る入って往った。中には白娘子が平生《いつも》と同じような姿で小婢と二人で坐っていた。
「あなたはほんとに薄情な方ですわ、あんな蛇捉の男なんか伴れて来て、あなたがそんなにわたしをいじめるなら、私にも考えがありますよ、この杭州一城の人達の命にかかわりますよ」
 許宣は恐ろしくてじっとして聞いてはいられなかった。彼はそのまま外へ出たが、足を止めるのが恐ろしいので足の向くままに歩いた。彼は清波門《せいはもん》の外へ往っていた。彼はそこへ往ってから気が注いて、これからどうしたものだろうかと考えた。しかし、それからどうしていいか、どう云う手段を
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