であった。
「あなたは家内があるくせに、そんな嘘を云うものじゃありません、私はあなたの家内じゃありませんか」
 許宣はがたがた顫いだした。そして、声を顫わし顫わし云った。
「姐さん、そいつは妖精です、そいつの云うことを聞いてはいけないです」
 白娘子は許宣の傍へ往った。
「あなたは、私と夫婦でありながら、人の云うことを聞いて私を嫌うとは、ひどいじゃありませんか、でも、私はあなたの家内ですから、他へはまいりません」
 白娘子は泣きだした。許宣は急いで起って李幕事の袖を曳いて外へ出た。
「あれが白蛇の精です。どうしたら宜いのでしょう」
 許宣は未《いま》だ口にしなかった鎮江に於《お》ける怪異を話して聞かした。
「ほんとうに蛇なら、宜い人がある、白馬廟《はくばびょう》の前に、蛇捉《へびとり》の戴《たい》と云う先生がいる、この人に頼もうじゃないか」
 李幕事は前《さき》に立って許宣を伴れて白馬廟の前へ往った。戴先生は折好く家の前に立っていた。
「お二方とも何か私に御用ですか」
 李幕事はいそがしそうに云った。
「私の家におおきな白蛇《しろへび》が来て、災《わざわい》をしようとしております、どう
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