を忘れないように」
許宣は法海禅師に別れて、身顫《みぶる》いしながら帰り、針子橋の李克用の家へ往った。李克用は許宣から白娘子の話を聞いて、はじめて誕生日の夜に見た妖蛇の話をした。そこで許宣は碼頭《はとば》の家を畳んで、再び李克用の家へ移ったが、十日と経たないうちに朝廷から恩赦の命がくだって、十悪大罪を除く他の者はみな赦《ゆる》された。許宣もそれと同時に赦されたが、法海禅師の詞もあるから急いで杭州へ帰って往った。
李幕事夫婦は許宣の帰って来るのを待っていた。李幕事は許宣の挨拶が終るのを待って云った。
「お前も今度は豪《えら》い目に逢った。私はお前が蘇州へ往く時も、蘇州から鎮江へ往く時も、できるだけのことはしてやったが、それでも苦しかったのだろう、それと云うのもお前が一人でぶらぶらしてるからだ、早く家内をもらって身を固めるが宜い、そうすれば怪しい者だって寄りつかない」
許宣はそれよりもじっとおちつきたかった。
「私は、もう懲り懲りしましたから、家内はもらいません」
許宣のその詞が終るか終らないかに人声がして、そこへ入って来た者があった。それは許宣の姐が白娘子と小婢を伴れて来たところ
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