中へもんどり打って飛び込んでしまった。許宣はびっくりして眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った。そうして許宣は夢が覚めたようになった。
「あの和尚さんは、なんと云う和尚さんでしょう」
 許宣は気が注いて傍の人に訊いた。
「あれが、法海禅師《ほうかいぜんし》様だ、活仏《いきぼとけ》だ」
 和尚の侍者が許宣を呼びに来た。許宣は伴れられて和尚の前へ往った。
「お前さんは、あの女達とどこであわしゃった」
 許宣はそこではじめからのことを話した。和尚はそれを聞いて云った。
「宿縁だ、しかし、お前さんの慾念《よくねん》が深いからだ、だが、災難はもうすぎたらしい、これから杭州に帰って、修身立命の人にならなくてはいけない、もし再びこんなことがあったら、湖南《こなん》の浄慈寺《じょうじじ》に来てわしを尋ねるが宜い、今、わしが偈《げ》を云って置くから、覚えているが宜い、本《もと》これ妖蛇《ようじゃ》婦人に変ず、西湖《せいこ》岸上《がんじょう》婦身《ふみ》を売る、汝《なんじ》慾《よく》重きに因《よ》って他計《たけい》に遭《あ》う、難《なん》有れば湖南《こなん》老僧を見よ、宜いかね、この偈
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