。許宣の引返そうとする顔を説経していた和尚がちらと見た。
「あの眼に妖気がある、あれを呼べ」
侍者の一人が呼びに往ったが、許宣はもう山をおりかけていたので聞えなかった。すると和尚はいきなり禅杖《ぜんじょう》を持ってたちあがるなり、許宣を追っかけて往った。
山の麓《ふもと》では大風が起って波が出たので、参詣人は舟に乗ることができずに困っていた。山をおりた許宣もその人びとに交って岸に立って風の静まるのを待っていた。と、一艘《いっそう》の小舟がその風の中を平気で乗切って来て陸《おか》へ着けかけた。許宣は神業のような舟だと思って、ふいと見ると、その中に白娘子と小婢《じょちゅう》の二人が顔を見せていた。その白娘子と許宣の眼が合った。
「あなた、早くお乗りなさい、風が吹きだしたから、あなたをお迎いに来たのです」
舟は同時に陸へ着いた。許宣は喜んで水際へおりた。許宣の後には許宣を追っかけて来た和尚がいた。
「この※[#「薛/子」、第3水準1−47−55]畜《ちくしょう》ここへ来やがって何をしようと云うのだ」
和尚は舟の中を見て怒鳴りながら禅杖を揮《ふ》りあげた。と、白娘子と小婢はそのまま水の
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