借りて薬舗をはじめた。許宣ははじめて一家の主人となっておちつくことができた。
 七月の七日になった。その日は英烈竜王《りゅうおう》の生日《えんにち》であった。許宣は金山寺《きんざんじ》へ焼香に往きたいと思って再三白娘子に同行を勧めたが白娘子は往かなかった。
「あなた一人で往っていらっしゃい、しかし、方丈《ほうじょう》へだけは往ってはいけないですよ、あすこには坊主が説経してますから、きっと布施を執られますよ、宜いですか、きっと方丈へ往ってはいけないですよ」
 許宣は独りで往くことにして、舟を雇い、上流約一里の所にある金山寺の島山《しまやま》へ往った。揚子江の赤濁《あかにご》りのした流れを上下して金山寺へ往来する参詣人の舟が水鳥の群れたように浮んでいた。京口瓜州一水《けいこうかしゅういっすい》の間、前岸《ぜんがん》瓜州の楊柳《ようりゅう》は青々として見えた。
 許宣は金山寺へあがって竜王堂へ往き、そこで焼香をすまして、あちらこちらを歩いているうちに、多くの参詣人が和尚の説経を聞いているところへ往った。許宣はここが白娘子の往ってはいけないと云った方丈だと思った。彼は急いで方丈の中を出て往った
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