宜い気もちじゃありませんよ、あなたは、ここの旦那を老実な方だと云いましたが、どうしてそうじゃありませんよ、私が東厠《べんじょ》へ往ってると、後からつけて来て手籠《てご》めにしようとしたのです、ほんとに厭《いや》な方ですよ」
「しかし、べつにどうせられたと云うでもなかろう、まあ宜いじゃないか、早く帰ってお休みよ」
「でも、私はあの旦那が恐いわ、これからさき、またどんなことをせられるか判らないのですもの、それよりか、私が二三十両持ってますから、ここを出て、碼頭《はとば》のあたりで小さな薬舗を開こうじゃありませんか」
許宣も人の家の主管《ばんとう》をして身を縛られるよりも、自由に己《じぶん》で舗《みせ》を持ちたかった。彼は白娘子の詞《ことば》に動かされた。
「そうだな、小さな舗が持てるなら、そりゃその方が宜いが」
「では持とうじゃありませんか」
「そうだね、持っても宜いな、じゃ、暇をくれるかくれないか、明日旦那に願ってみよう」
許宣は翌日李克用に相談した。李克用は己の弱点があるうえに奇怪な目に逢っているので、許宣の云うことに反対しなかった。そこで許宣は白娘子と二人で碼頭の傍へ手ごろの家を
前へ
次へ
全65ページ中53ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング