王主人の媽々は白娘子を放そうとはしなかった。
「もうすっかり事情も判ったのですから、許宣さんだっていつまでも判らないことは云わないですよ」
 許宣はもう白娘子に対する疑念が解けていた。王主人の媽々は白娘子を許宣の室へ伴れて往った。許宣と白娘子はその夜から夫婦となった。

 許宣の許へ白娘子《はくじょうし》が来てからまた半年ばかりになった。ある日、それは二月の中旬のことであった。許宣は二三人の朋友《ともだち》と散策して臥仏寺《がぶつじ》へ往った。その日は風の暖かな佳い日であったから参詣人《さんけいにん》が多かった。許宣の一行は、その参詣人に交って臥仏寺の前に往き、それから引返して門の外へ出た。そこには売卜者《ばいぼくしゃ》や物売る人達が店を並べていた。その人びとの間に交って一人の道人《どうじん》が薬を売り符水《ふすい》を施《ほどこ》していた。道人は許宣の顔を見ると驚いて叫んだ。
「あなたの頭の上には、一すじの邪気が立っている、あなたの体には、怪しい物が纏《まと》うている。用心しなくては命があぶない」
 許宣は非常に体が衰弱して気分がすぐれなかった。それに白娘子に対して抱いている疑念も
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