あった。彼はそれを聞くと恐ろしくなった。地べたに頭をすりつけるようにして云った。
「どうか私を助けてください」
 道人は頷《うなず》いて符《ふだ》を二枚出した。
「これをあげるから、何人《たれ》にも知らさずに、一枚は髪の中に挟み、一枚は今晩|三更《よなか》に焼くが宜い」
 許宣はそれをもらうと朋友に別れて家へ帰り、一枚は頭の髪に挟み、一枚は三更になって焼こうと思って、白娘子に知らさずに時刻の来るのを待っていた。
「あなたは、また私を疑って、符を焼こうとしていらっしゃるのですね、こうして、もう長い間、いっしょにいるのにどこが怪しいのです、あんまりじゃありませんか」
 傍にいた白娘子が不意に怒りだした。許宣はどぎまぎした。
「いや、そんなことはない、そんなことがあるものか」
 白娘子の手が延びて許宣の袖の中に入れてあった符にかかった。白娘子はその符を傍の灯の火に持っていって焼いた。符はめらめらと燃えてしまった。
「どう、これでも私が怪しいのですの」
 白娘子は笑った。許宣はしかたなしに弁解《いいわけ》した。
「臥仏寺前の道人がそう云ったものだから、彼奴《あいつ》俺をからかったな」
「ほんと
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