許宣はそこで盗賊の嫌疑は晴れたが、素性の判らない者から、私《ひそか》に金をもらったと云うかどで、蘇州《そしゅう》へ配流《ついほう》せられることになった。
 一方邵大尉の方では、約束の通り懸賞金五十両を出してそれを李幕事に与えたが、李幕事は義弟に苦痛を見せることによって得た金であるから、心苦しくてたまらない。で、牢屋の内にいる許宣に面会して、その金を旅費に与え、李将仕と相談して、二つの手簡を持って往かすことにした。その手簡の一つは、蘇州の押司《おうし》の范《はん》院長と云う者に与えたもので、一つは吉利橋下《きちりきょうか》に旅館をやっている王と云う者に与えたものであった。
 その日になると許宣は二人の護送人に伴れられて牢屋を出た。府庁の門口《かどぐち》には李幕事夫婦をはじめ李将仕などが来て待っていた。許宣は涙を滴《こぼ》してその人びとに別れの詞をかわして出発した。
 三日ばかりして蘇州府へ着いた。李将仕の手簡を見た范院長と王主人は、金を使って奔走したので、許宣は王主人の許に預けられることになった。

 許宣が王主人の許に世話になってから半年ばかりになった。彼はそこで毎日|無聊《ぶりょう》
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