段高い室になって、一人の色の白い女が坐っていた。衣服《きもの》の赤や青の※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》な色彩が見えた。その女は牀《とこ》の上に坐っているらしかった。捕卒は不審しながら進んで往った。
「われわれは、府庁からまいった者だが、その方は何者だ、白氏《はくし》なら韓大爺《かんだいや》の牌票《ぱいひょう》がある、その方が許宣にやった銀《かね》のことに就いて尋ねることがあるから、いっしょに伴れて往く」
女はじっと顔をあげたが、何も云わなければ驚いた容子《ようす》もなかった。
「あのおちつきすましたところは、曲者《くせもの》だ、捉えろ」
捕卒は一斉に走りかかっていった。と、同時に雷のような一大音響がした。捕卒はびっくりしてそこへ立ちすくんだ。そして、気が注《つ》いて女の方を見た。女の姿はもう見えなかった。捕卒は逃がしてはならないと思って、今度は腹を定めて室の中へ飛びこんで往った。女の姿は依然として見えなかったが、牀の傍には銀の包を積みあげてあった。それは紛失していた彼《か》の四十九個の銀錠であった。
捕卒は銀錠を扛《も》って臨安府の堂上へ搬《はこ》んで来た。
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