た》べてください」
 李幕事夫婦はひどく不思議に思って、許宣の室へやって来た。そして夫婦は卓の上の御馳走を見て驚いた。
「今日は、ぜんたいどうしたと云うのだい、へんじゃないか」
 李幕事は突立ったなりに云った。
「すこしお願いしたいことがありますからね、どうか、まあお掛けください」
 許宣はとりすまして云った。
「どんなことだ、さきに云ってみるが宜《よ》い」
「まあ、二三杯あがってください、ゆっくり話しますから」
 許宣は李幕事夫婦に酒を勧めた。酒は二巡三巡した。許宣はそこで李幕事の顔を見た。
「私は、これまで御厄介をかけて、こんなに大きくなりましたが、その御厄介ついでに、も一つお願いしなくてはならないことがあります、私は、結婚をしたいと思います」
「婚礼か、婚礼は大事だから、一つ考えて置こう、なあお前」
 李幕事は細君の顔を見たが、それっきり婚礼のことに就《つ》いては何も云わなかった。もすこし具体的の話をしようと思っていた許宣は、もどかしかったがどうすることもできなかった。
 酒がすむと李幕事は逃げるように室を出て往った。許宣はしかたなしに李幕事の返事を待つことにして待っていたが、二
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