持って来て白娘子に渡した。白娘子はそれをそのまま許宣の前へ置いた。
「これを費用にしてくださいまし、足りなければありますから、そうおっしゃってくださいまし」
それは五十両の銀貨であった。許宣は手を出さなかった。
「それをいただきましては」
「宜いじゃありませんか、費用ですもの」
白娘子はそれを許宣の手に持っていった。許宣は受けて袖《そで》の中へ入れた。
「それでは、今日はもう遅いようですから、お帰りになって、またいらしてくださいまし」
小婢がそこへ傘を持って出て来た。許宣はふらふらと起《た》って傘を持って出た。
許宣は夜になって姐《あね》の許へかえって、結婚の相談をしようと思ったが、人生の一大事のことを、世間ばなしのように話したくないので、その晩は何も云わずに寝て、翌朝《あくるあさ》起きるなりそれまで貯えてあった僅《わずか》かな[#「僅《わずか》かな」はママ]銭を持って、市場に往き、鶏の肉や鵞《がちょう》の肉、魚、菓実《かじつ》、一樽《ひとたる》の佳《よ》い酒まで買って来て、それを己《じぶん》の室《へや》へならべて、李幕事夫婦を呼びに往った。
「今朝は、私のところで御飯を喫《
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