すから、決して冗談じゃありませんから、本気になって聞いてくださいまし、私は主人を歿《な》くして、ひとりでこうしておりますが、なにかにつけて不自由ですし、どうかしなくちゃいけないと思っていたところで、あなたとお近づきになりました、私はあなたにお願いして、ここの主人になっていただきたいと思いますが」
貧しい孤児の前に夢のような幸福が降って湧《わ》いた。許宣は喜びに体がふるえるようであったが、しかし、貧しい己の身を顧みるとこうした富豪の婦人と結婚することは思いもよらなかった。彼はそれを考えていた。
「お厭《いや》でしょうか、あなたは」
許宣はもう黙っていられなかった。彼は吃《ども》るように云いだした。
「そんなことはありませんが、私は、家も無い、何も無い、姐の家に世話になって、それで、日間《ひるま》は親類の舗へ出ているものですから」
「他に御事情がなければ、他に御事情があればなんですが、そんなことなら私の方でどうにでもいたしますから」
そう云って白娘子は顔をあげて小婢を呼んだ。小婢がもうそこに来ていた。白娘子は何か小声で云いつけた。
小婢はそのまま室を出て往ったが、まもなく小さな包を
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