となっている上に三尺ばかりの白い蛇がとぐろをまいていた。和尚はそれを捉えて弟子が捧げている鉄鉢《てつばち》に入れた後《あと》で、又念じていると屏風の背《うしろ》から一尺ばかりの小蛇《こへび》が這いだして来た。和尚はそれも捉えて鉄鉢にいっしょに入れ、彼《か》の袈裟を上からかけて封をし、それを携えて帰りかけたので、豊雄はじめ一家の者は掌《て》をあわせ涙を流して見送った。そして、寺に帰った和尚は、本堂の前を深く掘らせて、彼《か》の鉄鉢を埋めさし、永劫《えいごう》が間《あいだ》世に出ることを戒《いまし》めたのであった。
 この『蛇性の婬』の話は、上田秋成《うえだあきなり》の『雨月物語《うげつものがたり》』の中でも最も傑出したものとせられているが、しかし、これは秋成の創作でなしに支那《しな》の伝説の翻案である。支那の杭州《こうしゅう》にある西湖《せいこ》の伝説を集めた『西湖佳話《せいこかわ》』の中にある『雷峰怪蹟《らいほうかいせき》』がその原話である。雷峰とは西湖の湖畔にある塔の名で、呉越王妃《ごえつおうひ》黄氏《こうし》の建立したものであるが、『雷峰怪蹟』では奇怪な因縁から出来たものとせられて
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