いる。著者も嘗《かつ》て西湖に遊んで南岸の湖縁《こべり》に聳《そび》え立った五層の高い大きな塔の姿に驚かされた一人である。その西湖には南岸の雷峰塔《らいほうとう》に対して北岸に保叔塔《ほしゅくとう》と云うのがある。
雷峰怪蹟
宋《そう》の高宗帝《こうそうてい》が金《きん》の兵に追われて、揚子江《ようすこう》を渡って杭州に行幸《ぎょうこう》した際のことであった。杭州城内|過軍橋《かぐんきょう》の黒珠巷《こくじゅこう》と云う所に許宣《きょせん》という壮《わか》い男があったが、それは小さい時に両親を歿《な》くして、姐《あね》の縁づいている李仁《りじん》と云う官吏の許に世話になっていた。この李仁は南廊閣子庫《なんろうかくしこ》の幕事《ばくじ》であった。許宣はその李幕事の家にいて、日間《ひるま》は官巷《かんこう》で薬舗《くすりみせ》をやっている李幕事の弟の李将仕《りしょうし》と云う人の家へ往って、そこの主管《ばんとう》をしていた。
許宣はそのとき二十二であった。きゃしゃな※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》な顔をした、どこか貴公子然たるところのある男であった。そ
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