が三尺あまりの口を開け、紅《くれない》の舌を吐いて室《へや》の中一ぱいになっていた。法師は驚いて気絶したがとうとう死んでしまった。
豊雄が往ってみると美しい富子となっていた。豊雄は己《じぶん》のために人に迷惑をかけてはすまないから、己は怪しいものの往くところに従《つ》いて往くと云った。庄司はそれをとめて、小松原《こまつばら》の道成寺《どうじょうじ》へ往って法海和尚《ほうかいおしょう》に頼んだ。法海和尚は「今は老朽ちて、験《しるし》あるべくもおぼえ侍《はべ》らねど、君が家の災《わざわい》を黙《もだ》してやあらん」と云って芥子《けし》の香《か》のしみた袈裟《けさ》を執《と》りだして、「畜《かれ》をやすくすかしよせて、これをもて頭《かしら》に打被《うちかず》け、力を出して押しふせ給え、手弱《たよわ》くあらばおそらくは逃去らん」と云った。庄司は喜んで帰って、その袈裟をそっと豊雄にわたした。豊雄は富子の閨房へ往って隙《すき》を見て、袈裟を被《き》せ、力をきわめて押しふせた。そこへ法海和尚の轎《かご》が来た。和尚は何か念じながら豊雄を退《の》かして袈裟を除《と》ってみると、そこには富子がぐったり
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