せた。
「こいつは雄じゃ、彼処には雄と雌の二つおるから、そのうちに雌もとるつもりじゃ」などとも云った。

 その夜篠原の主人は、隣家の者を三四人呼んで酒を飲んでいた。そのうちには皮剥ぎを手伝ってもらった親類の男もいた。一座の話は蛇を打った話で持ちきっていた。
「何しろ、話には聞いておったが、見たことは初めてだ」
 と、一人が云うと、
「こりゃあ、孫子への話の種じゃよ」とまた一人が云った。
「そんなに大きくはないと思うて、往ってみると瀑壺に一ぱいになっておったから驚いたよ」と、云ったのは彼の親類の男であった。
 篠原の主人はにこにこして自己《おのれ》を嘆美する皆の話に耳をやっていた。
「やっぱりあんな魔物を打つには、此処な親爺じゃないと打てないよ」と、親類の男が云った。
「そうとも、此処な親爺は、どしょう骨がすわっておるからな」と、一人の男が云って篠原の主人の顔を見た。
「はははは」篠原の主人は盃を持ったなりに対手の男を見かえしたところで、眼の前に黒い閃きがするように思ったが、忽ち背後《うしろ》にひっくりかえった。
 もう酒どころではなかった。人びとは起ちあがって主人を介抱しようとした。
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