漏れた陽の光が射して処どころに虹をこしらえていた。篠原の主人は瀑水が瀑壺から流れ出る谷川の上の巌角を踏みながら、むこう側に渡ろうとしてふと瀑下の方に眼をやると、その足はぴったり止った。瀑下の右になった窈黒な巌穴から松の幹のような大蛇が半身をあらわして、上の方に這いあがろうとしているところであった。黒いその背はぎらぎらと光って見えた。……よし打ってやれと篠原の主人は思った。彼はその蛇を打って村の人を驚かしてやりたかった。彼は後戻りして瀑壺の縁の巌を伝うて瀑下へ距離を縮めて往った。恐ろしい胴体はのろのろと動いていた。好奇《ものずき》な猟師はやがて足場を固め、狙いを定めて火縄をさした。篠原の主人の耳には谷全体が鳴動するように響いて、大きな長い長い胴体は瀑壺の中へ落ちた。
篠原の主人は思い通り蛇が打てたので、大に喜んでやはり猟師仲間の親類の男を呼んで来て、それに手伝ってもらって皮を剥ぎ、それを持って帰って庭前《にわさき》の立樹と立樹の間に長い竹を渡してかけた。それを知った村の人びとはぞろぞろと篠原へ集まって来て、その皮を見て驚嘆した。篠原の主人は得意そうに蛇を打った時の容《さま》を話して聞か
前へ
次へ
全6ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング