とした。金は両親の消息が解らないので、いって探ろうとしていたから決しなかった。その時網で老人と老婆の尸《しがい》を曳《ひ》きあげた者があった。金は両親かも解らないと思ったので、急いで出かけていって験べた。果して両親であった。尹翁は金に代って棺をかまえた。金はひどく悲しんだ。
また人が来て、一人の溺れている婦人をすくったが、それは自分で金生の妻であるといっているといった。金は驚いて出ていった。女はもう来ていたが、それは庚娘でなかった。それは王十八の細君であった。女は金を見てひどく泣いて、
「どうか私を棄《す》てないでください。」
といった。金はいった。
「僕の心はもう乱れている。人のことを考えてやる暇はないのだ。」
女はますます悲しんだ。尹翁は精しく故《わけ》を聞いて、
「それは天の報《むくい》だ。」
といって喜び、金に勧めて結婚させようとした。金は、
「親の喪におりますから困ります。それに復讎《ふくしゅう》するつもりですから、女を伴《つ》れていては手足まといになるのです。」
といった。女はいった。
「もしあなたのお言葉のようだと、もしあなたの奥さんが生きていらしたら、復讎と喪
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