十九がそれを逐《お》っかけた。庚娘は池の中へ飛び込んだ。十九は人を呼んで引きあげたが、もう庚娘は死んでいた。しかしその美しいことは生きているようであった。
 人びとは一緒に王母子の尸《しがい》を験《しら》べた。窓の上に一つの凾《はこ》があった。開けて見ると庚娘の書いた物があって、精《くわ》しく復讎《ふくしゅう》の事情を記してあった。皆庚娘を烈女として尊敬し、金を集めて葬ることにした。夜が明けて見に集まって来た者が数千人あったが、その容《さま》を見て皆が拝んでいった。そして一日のうちに百金集まったので、そこでそれを南郊に葬ったが、好事者《ものずき》は朱い冠に袍《うわぎ》を着けて会葬した。それは手厚い葬式であった。
 一方王に衝《つ》き堕《おと》された金大用《きんたいよう》は、板片《いたきれ》にすがりつくことができたので死ななかった。そして流れて淮《わい》へいったところで、小舟に救いあげられた。その小舟は富豪の尹《いん》翁というのが溺れる者をすくうために設けてあるものであった。
 金はやっと蘇生したので、尹翁の許へいって礼をいった。翁は厚くもてなして逗留《とうりゅう》して子供を教えさせよう
前へ 次へ
全13ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング