れにあなたはお金持じゃありませんか。御馳走位はなんでもないでしょう。酒なしで結婚するのは、儀式に欠けるじゃありませんか、」
 王は喜んで酒をかまえて二人で飲んだ。庚娘は杯を持ってしとやかに酒を勧めた。王はだんだん酔って来て、もう飲めないといいだした。庚娘は大きな杯を自分で飲んでから、強いて媚《こび》をつくってそれを王に勧めた。王は厭というに忍びないので、またそれを飲んだ。王はそこで酔ってしまったので、裸になって庚娘に寝を促した。庚娘は酒の器をさげて燭《ひ》を消し、手洗にかこつけて室を出ていって、刀を持って暗い中へ入り、手さぐりに王の項《くび》をさぐった。王はその臂《うで》をつかんで昵声《なれごえ》をした。庚娘は力まかせに切りつけた。王は死なないで叫んで起きた。庚娘はまたそれに切りつけた。そこで王は殪《たお》れた。
 王の母親は夢現《ゆめうつつ》の間にその物音を聞きつけて、走って来て声をかけた。庚娘はまたその母親も殺した。王の弟の十九がそれを覚った。庚娘はにげることができないと思ったので、急いで自分の吭《のど》を突いた。刀が純《なまくら》で入らなかった。そこで戸を啓《あ》けて逃げだした。
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