て招いてゐる。
(ちよつと来て見たまへ、ちよつと来て見たまへ、)
何事であらうかと寄つて行つた。
(はい、)
(君だけに話してやることがある、秘密の話だよ、決して人に云つてはならんぞ、)
(はい、決して口外致しません、)
(決して云つてはいけないぞ、大変な秘密なんだから、)
(はい、)
(もすこし寄つて来い、)
なんだか気味が悪るかつたが、寄らない訳にも行かないので養父の顔の傍へ自分の顔を寄せて行つた。
(お前は、わしの家内のゐる所を知つてゐるのか、知らないだらう、それは、わし以外、何人も知らないことなんだ、決して云つてはならんぞ、これを人に云ふと、世間が大騒ぎになつて、警視総監は免職になるんだ、好いか、)
(はい、)
(大変な秘密なんだが、お前にだけ云つてやる、わしの家内は、この傍にゐるんだ、あれは死にもかどわかされもしてゐないぞ、すぐこの傍にゐるんだ、この――谷には、あかずの家と云ふ家があるんだ、お前達には判らないが、わしの眼にはちやんと見える、それは昔、切支丹屋敷にゐた伴天連が、封じて開かないやうにして、その上に人の眼に見えないやうにした屋敷なんだぞ、わしの家内は其所にゐるん
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