た。
「この方は、さつきから、あんなことを云つてらつしやるんですよ、つまらないことぢやありませんか、」
曹達水のコツプは女の前に行つた。
「さうですよ、本当につまらないことですよ、」
義直は困つてしまつた。
「つまらないことぢやないです、僕にとつては大事のことなんです、云つてください、」
「私が云はないたつて、今に知れますよ、ぢつとしてゐらつしやい、」
「駄目ですよ、何故あなたは、私がこんなに頼むのに云つてくれないのです、」
女は曹達水を飲んでゐた。
「そんな無理を云ふものぢやありませんよ、あまり無理を云ふと、私は行つちまひますよ、」
「ぢや、どうしても云つてくださらないですか、」
「それが無理ですよ、ぢつとしてゐらつしやい、」
義直はもう泣き出しさうな声になつてゐた。
「何故云つてくれないです、僕はあなただけが判つてゐて、他のことが何も判らないです、」
「では、三階へゐらつしやい、判るやうにしてあげますから、」
義直は嬉しかつた。
「では、すぐ三階へ行きませう、」
「まゐりませう、」
義直と一緒に女も腰をあげた。義直は青い服を着た男のゐるテーブルの前を通つて、其所に見えて
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