ゐる寒水石の階段をあがつて行つた。その階段は螺旋形になつてゐた。義直は自分の後からあがつて来る女の髪に眼を落した。それはエス巻のやうにしてその下に蝙蝠か何かの羽をひろげたやうにリボンをかけてゐた。
 二階の室には其所に円いテーブルを控へてあつたが、何人も人は見えなかつた。義直はその室を見流しながら三階へ通じた階段をあがつて行つた。
 三階の室は薄黄ろな広い室であつた。室の中には其所此所にテーブルを置いて、男とも女とも判らない人の影が、其所にぽつり此所にぽつりと云ふやうに見えてゐた。義直は何所へ行つて腰をかけたものであらうかとちよと躊躇した。
「此方へゐらつしやい、」
 正面のテーブルにゐた者が手をあげて招いた。義直は何人か知つた人だらうかと思ひながら一足二足行つて覗いた。二十三四に見える小柄な綺麗な女であつた。
「ゐらつしやいよ、これから友達になるんぢやありませんか、」
 義直は何所か見たやうなことのある女だと思つたが、何人であるのか思ひ出せなかつた。
「もう判つたでせう、私よ、」
 女は笑つたが義直には判らなかつた。
「義直さん、私が判らない、写真で見てやしない、」
 義直の頭にちら
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