黄ろなカーテンに、内から灯の射したバーのやうな家が路の右側に見えた。義直はその時非常に咽喉が乾いてゐたので、曹達水でも飲まうと思ひだした。彼は足を止めてちよと中を覗いてみた。四枚入つてゐるガラス戸を左右に開けて、真中へ鏡のやうにてら/\光る衝立を立てゝあつたが、その右の端から見附の棚の下に立つてゐる女の洋服のやうな水色の着物が見えてゐた。左の壁の方を見ると若い男が壁の方を背にしてコツプを手にしてゐた。
義直は右の方の戸の傍から入つた。右の壁の方へ寄つて黒い円いテーブルを二つ置いて、その向ふのテーブルには、鼻の高い支那人の著るやうな青い服を著た男が此方を向いて腰をかけてゐた。その青い服の右側には、其所の二階へあがる石のやうな白い階段が見えてゐた。
左の方の壁際には長方形のテーブルを三つ据ゑてあつたが、その中のテーブルには、外から見た若い男と、それと向き合つて横顔の赤い日本人らしくない髪の毛を延ばした洋服を著た男が腰をかけてゐた。
「ゐらつしやいまし、」
見付の棚の下には二人の女がゐた。一人は外から見てゐた水色の洋服を著た女で、一人は島田に結うて白いエプロンをかけた十六七にしか見えな
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