よ、」
「さうですか、遅くなつたもんですから、」
義直が内へ這入ると叔母は後を締めた。
「叔父さんは、どちらです、」
「お座敷の縁側にゐらつしやるんですよ、」
「さうですか、」
義直は玄関へあがつて左の廊下へ出た。客室はその行き詰めの右側にあつた。其所は内庭に面した所で、雨戸を締めてない客室の前の廊下に、新らしい籐椅子を此方向きに置いて、白い浴衣を着た叔父が仰向きになつてよつかかつて、団扇を膝のあたりに置いてゐた。
「叔父さん、今晩は、」
義直は呼吸が詰るやうに苦しかつた。
「義直か、」
「遅くあがつてすみません、」
「寺から何時帰つた、」
「五時頃に帰りましたが、途で友人に逢つたもんですから、其所へ寄つて、つい話し込んでゐる内に遅くなりました、」
叔父はそれには返事をしないでごそりと体を起して、其所に蹲むやうにしてゐる義直を見おろした。と、其所へ叔母が麻の蒲団を持つて客室の中から来た。叔母は藍微塵の浴衣を着てゐた。
「此所へでもお坐りなさい、もう女中が寝ますから、お茶もあげませんよ、」
「もう結構です、遅いんですから、」
義直はさう云ひ云ひその蒲団を貰つて坐つた。
「お前は
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