好いんですよ、)
(わるいわ、そんなことをしては、一周忌が済んでから、連れてつてくださいよ、私も来月ならゆつくり出来ますわ、)
(さう、では、来月にして、何か買つてあげやう、何が好いんです、)
 かはりになにか買つてでもやらないと済まないやうな気がした。
([#「(」は底本では「「」]さうね、私は、着替の単物が一枚欲しいと思つてるんですが……、)
(単物、買つてあげよう、)
 買つてやると云つても五円の小遣にも困つてゐるからすぐは買へないが、月末になれば十円や二十円はどうにでもなると思つた。それに一周忌も近いからその時になれば、二三十円の金は都合がつくやうな気がしてゐた。
(二十一二日頃まで待つてお出で、買つてあげるから、)
 二十日が一周忌に当つてゐた。
(さう、有難いわね、でも、無理に買つていただかなくても好いんですよ、)
(なに大丈夫だよ、まだ叔父が干渉して、金のことなんか勝手にはならないけど、それくらゐのことはどうにでもなるんです、)
(奥様をお持ちになるまで、叔父さんが後見なさるでせう、何時お持ちになります、)
 女は笑顔を見せた。その右の眼頭は赤く充血してゐた。……
 蚊の
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