へ這入つて、その中でひらひらと飛んだ。やはり大きな蝶であつた。
(蝶だな、)
 叔父のことがまた浮んで来た。自分で来てゐないにしても、帰つて来たならすぐに来るやうに云つてよこしてあるに違ひないから、帰つたなら行かなければならない。そして行つたなら、和尚さんが留守であつたから、念のために明日の朝行つて来ると云はふ、もし云つて来てないなら、朝早く寺へ行つて来てからにしやう、行つて来た上なら叔父に逢つても気の強いところがあると思つた。またさうしないと明後日の費用を立て替へて貰ふにしても云ひ出しにくいのだと思つた。
(借してくれないことはないだらう、)
 春の頃から定まつてゐる小遣銭では足りないやうになつたから、十円二十円と云ふやうに借りてそれが百五六十円にもなつてゐるが、明後日のは内所の金でないし、従来の関係から云つても都合をつけてくれなくてはならない金である。
(それを二百円借りるなら、二三十円は残るだらうから、着物を買つてやらう、)
 ……二階の窓の先には小さな公園があつて、それをおほふた青葉が微風に動いてゐた。二人は寝そべつて話してゐた。
(何所かへ一晩泊りでゐらつしやらない、)
(行
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