その豕を焼き馬を煮て御馳走をこしらえたが、その味はいつもの料理とちがってうまかった。
万生の名はそれから高くなった。万はそこに一ヵ月あまりもいたが、もう怪しいこともないので、そこで別れて帰ろうとした。その時材木商の某《なにがし》という者があって、万を自分の家へ招待した。その材木商の家にはまだ嫁にいかない女があったが、ある日不意に五通が来た。それは二十歳あまりのきれいな男であった。その五通は女を細君にするといって、百両の金を置いて日を決めてから帰っていったが、その期日もすでに迫って来たので、一家の者はおそれまどうているうちに万生の名が聞えて来た。一家の者は万に来てもらって五通の禍を除いてもらおうと思ったが、厭といわれるのが恐ろしいので、その事情はかくして饗燕《きょうえん》にかこつけて招待したのであった。
そんな事とは知らない万は、材木商の家へ招待せられていって、酒盛が終ったので帰ろうとしていると、きれに化粧した女が出て拝礼をした。それは十六、七の可愛らしい女の子であった。万はひどく驚いて故《わけ》は解らないが急いで起って礼をかえした。主人の材木商は強《し》いて万をもとの席に就《つ》か
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