。一家の者は皆生きた心地がしなかった。
会稽《かいけい》に万《ばん》という姓の男があった。それは邵《しょう》の母がたのいとこであったが、強くて弓が上手であった。ある日万は邵の家へ来た。邵は客を泊める舎《へや》に婢や媼を入れてあるので、とうとう万生を内院《いま》へ伴れていって泊めた。
その夜、万は枕についたが長い間寝つかれなかった。と、庭の中を人の歩いていくような気配がするので、窓からそっと窺《のぞ》いた。見ると一人の男が細君の室《へや》へ入っていくのであった。万は怪しいと思ったので刀を捉《と》ってそっといってのぞいた。
細君の室には細君の閻と若い男が肩を並べ、肴を几の上に置いて酒盛をしようとしていた。万は火のように怒って、いきなり室の中へ入っていった。と、男は驚いて起ちあがった。万は刀を抜いて斬りつけた。刀はその男の頭蓋骨に中《あた》ったので、頭が裂けて※[#「足へん+倍のつくり」、第3水準1−92−37]《たお》れた。
見るとそれは人間でなくて小さな驢《ろば》のような馬であった。万は愕《おどろ》いて、
「これは一たいどうしたのです。」
といって訊いた。閻は五通神になやまされ
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