なたがここをおひきあげになると聞いたので、それで、そっと来たのですよ。」
金は女を伴れて帰っていきたかった。
「一緒に僕の家へいこうじゃないか。」
女はためいきをついていった。
「申しにくいことですけれど、お別れしなくちゃなりませんから、あなたにかくすこともできません。私は金竜大王の女《むすめ》なのですが、あなたと御縁があったものですから、それでこんなになったのです。口どめしておかなかったものですから、あの婢を江南にやったことが世間に知れて、私があなたのために五通を片輪にしたといいだしましたから、それをお父様が聞いて、たいへんな恥だといって、ひどく忿って私を死なせようとしましたが、いいあんばいに婢が自分のことにしてくれましたので、お父様の立腹もすこしおさまって、婢を何百とたたいてすみました。私はそれから一足出るにも、皆|保姆《ばあや》をつけられるのです。その隙を見てやっとまいりましたから、申しあげたいこともありますが、精しいことはいっていられないのです。」
女はそういってから別れていこうとした。金はその女の袖をとらえて涙を流した。女はいった。
「あなた、そんなになさらなくっても、
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