おこた》ってきた。主人はその時|厠《かわや》に往った。と、俄かに狐兵があらわれて、弓を張って主人を取り囲んで乱射した。矢が臀《しり》にあつまってきた。主人は大いに懼れて叫んだので、家の者がかけつけて主人を救けて戦った。そこで狐は遁げて往った。矢を抜いてみると蒿《よもぎ》のとげであった。
こんなことで一ヶ月あまりを費した。狐の害はそれほどでもなかったが、いつどんなことをするかも判らないので警戒をおこたらなかった。主人はそれが厭でたまらなかった。
ある日胡が兵士を率いてきた。主人は出て往って胡の方を見た。胡はそれを見ると兵士の中にかくれた。主人は、
「胡先生、胡先生」
と言って呼んだ。胡はしかたなしに出てきた。主人は、
「僕は先生に礼を失していないのに、なぜ僕の家を攻撃します」
と言った。狐兵が弓を張って主人を射ようとした。胡はそれを止めた。主人は近くに往ってその手を握った。そして胡のいた斎《へや》へ伴《つ》れてきて、酒を飲みながら話した。その時主人は従容《しょうよう》として言った。
「先生は達人だから、了解してくださるだろうと思いますが、私は先生と家の児の結婚は好みません、それは
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