持っていた。馬の嘶《いなな》く声と人声が家の周囲に湧きたって聞えた。
 主人は外へ出なかった。
「家に火をつけろ」
 と言った。主人はますます懼《おそ》れた。その家に強い男がいた。家の者を従えて騒ぎながら打って出て、石を投げ箭《や》を飛ばして狐兵に当った。そして必死になって戦ったので双方に負傷者を出したが、そのうちに狐の方が負けてきて、ごたごたとなって逃げてしまった。その跡に狐の方で落して往った刀が雪のように光っていた。側へ往ってひろってみると、それは高粱《こうりゃん》の葉であった。皆が笑って言った。
「狐の腕前もこれ位のものだよ」
 そして狐のまたくるのを恐れてますます備えをしていた。翌日家の者が聚《あつま》って話していると、見あげるような大きな男が不意に空からおりてきて、手にしていた門の扉のような大きな刀を揮《ふる》って斬りかかってきた。家の者はもう一人|逐《お》いつめられて斬られた。家の者は弓や射石を投げて巨人を中にとりこめて乱撃した。巨人は斃れてしまった。それは葬式の時に用いる藁人形であった。家の者はますます狐をあなどった。
 狐はそれから三日間はこなかった。家の者はすこし懈《
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