、主人はきかなかった。客は慙《は》じたようなふうであった。客はまた言った。
「胡も家柄ですよ、そうあなたの家に劣るものじゃありませんよ」
 すると主人が言った。
「それではありのままに言いますが、私が結婚させないのは他に意味はないが、ただ胡先生は人間ではありませんから」
 客は怒った。
「それは無礼です」
 主人も怒った。
「何が無礼だ」
「けしからんことをおっしゃる」
「何がけしからん」
「けしからんです」
 二人は猛りたった。客はいきなり主人の顔をひっ掻いた。主人は家の者を呼んで、杖で撲《なぐ》ろうとした。客は驚いて遁《に》げて往った。乗って逃げる隙もなかったとみえて驢はそのままにしてあった。側へ往ってみると黒毛の耳の高い尾の長い大きな驢であった。そこで手綱を解いて曳っぱったが動かなかった。そして何人《だれ》かが乗ろうとすると、そのままつくばってしまった。それは蝗《いなご》のような虫であった。
 主人は客が怒っていたので、きっと復讐にくるだろうと思って用心していた。翌日果して一隊の狐兵がおし寄せてきた。馬に乗った者もあれば徒歩でいる者もあって、それが戈《ほこ》を持ち弩《いしゆみ》を
前へ 次へ
全8ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング