胡氏
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)直隷《ちょくれい》に
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一人|逐《お》いつめられて
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直隷《ちょくれい》に富豪があって家庭教師を傭おうとしていると、一人の秀才が来て、自分を傭うてくれと言った。主人は内へ入れて話してみると、言語がさわやかであったから、好い人があったと思って悦《よろこ》んだ。秀才は自分で胡《こ》という姓であると言った。
そこで富豪は幣《かね》を出して胡を自分の家へ置いた。胡は児《こども》を教育するにあたって心切《しんせつ》で勤勉であった。それに学問が博くてしたっぱな人間でないということが解った。その胡は時とすると散歩に出て夜暗くなって帰る癖があったが、その時は入口の扉を堅く閉めてあるにもかかわらず、叩いて人を呼ばないで、いつの間にか室《へや》の中に入っていた。主人は不思議に思って、ある時そっと窺《のぞ》いてみると、室《へや》の中に胡はいなくて一疋の狐がいた。
主人はひどく驚いたが、しかし胡の意《こころ》をはかってみるに悪いことをするようでもないから、鄭重に取りあ
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