先生の乗物も住居も、人とおんなじでないから、児が結婚したにしても先生の所にいられないことは先生も御存じだろうと思います、そのうえ諺にも瓜と果物の青いのは口に適しないということがあります、先生だってもらってくださるのは厭でしょう」
 胡はひどく慙じた。主人が言った。
「先生が僕を見棄てないなら、僕の家に十五になる男の児があります、先生の方にどなたかありますなら、迎えたいと思いますが、先生の方に年比《としごろ》の方がないでしょうか」
 胡は喜んで言った。
「僕に年のゆかない妹があります、公子より一つ年下です、ひどく馬鹿でもありませんから、さしあげたいと思いますが、如何でしょうか」
 主人は起って拝礼した。胡も答礼した。そこで新たに杯を交換して歓び、前の仲違いは忘れてしまった。そして主人は酒肴をならべて胡の従者一同をねぎろうた。主人はそれから胡の住居を訊いて結納をおくろうとしたが胡が辞退した。そして胡は夜になって酔って帰って往った。
 それから狐の害もなくなって富豪の家も安心した。そして一年あまりになったが、胡はこなかった。ある人は胡が嘘を言ったのではないかと言ったが、主人は疑わないで待って
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