卵塔場の中へ入って往った。それは風のない夕方のことで夕陽が微赤い光をそのあたりに投げていた。新一は石碑の間を彼方此方と潜《くぐ》って歩いているうちに、一処平べったい大きな石碑が横に倒れて、それが芒の中に半ば隠れている処へ出た。新一はこんなに石碑が倒れているのに何故起してやらないのだろうと思いながら、ふと見ると、その倒れた石碑の上に茶色の毛をした犬のような細長い獣が人間の腹這《はらんば》いになったように寝ていたが、それが小さな帳面を前へ置いて、一心になって見ているような容《ふう》をしていた。新一は不思議なことをする獣だと思っていきなり大きな声を立てた。と、獣は吃驚して跳びあがるなり逃げて往ったが、直ぐ傍の石碑の陰へ隠れて見えなくなった。
新一は獣の癖になにを見ているだろうと思って、その跡へ往ってその帳面のようなものを拾ってみた。それは半紙を三枚綴り合せて、片仮名のような文字を微青く書いたものであった。タカとか、オユキとか、オハナとか、人の名のようなものを紙の中程から横に並べて書いたもので、そうした物が三十ばかりも書いてあったが、初めから二枚目の終りあたりまでは、文字の上に三角の標《しる
前へ
次へ
全30ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング