狐の手帳
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)比《ころ》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)十時|比《ころ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「※」は「女+朱」、第3水準1−15−80、56−1]
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一
幕末の比《ころ》であった。本郷の枳殻寺《からだちでら》の傍に新三郎と云う男が住んでいたが、その新三郎は旅商人《たびあきんど》でいつも上州あたりへ織物の買い出しに往って、それを東京近在の小さな呉服屋へ卸していた。それは某年《あるとし》の秋のこと、新三郎の家では例によって新三郎が旅に出かけて往ったので、女房のお滝は一人児の新一と仲働の老婆を対手に留守居をしていた。
もう蚊もいなくなって襟元の冷びえする寝心地の好い晩であった。お滝はその年十三になる新一を奥の室《へや》へ寝かして、己《じぶん》は主翁《ていしゅ》の室となっている表座敷で一人寝ていたが、寝心地が好いのでぐっすり睡っていたところで、不
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